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岡山簡易裁判所 昭和60年(ろ)1号 判決 1987年3月03日

主文

被告人を罰金一万五〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間、但し端数は一日に換算して被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五九年一一月二三日午前一〇時四三分ころ、岡山県公安委員会が道路標識によつて最高速度を四〇キロメートル毎時と指定した岡山県真庭郡勝山町横部二二六番地付近道路において、右最高速度をこえる六〇キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したものである。

(証拠の標目)(省略)

弁護人の主張、被告人の弁解の要旨は、被告人の指定最高速度の超過は二〇キロメートル毎時であつて、それ自体は反則行為にすぎないのに、被告人は、判示日時より過去一年以内である昭和五八年一二月一三日、岡山県公安委員会から運転免許の効力六〇日間停止の処分を受けていたので、非反則行為として検挙、起訴されたものである。右処分の基礎となつた交通事故は、被告人に対する岡山簡易裁判所昭和五八年(ろ)第一六三号業務上過失傷害被告事件として同裁判所の審理を受けており、その公訴事実の概略は、被告人が昭和五八年一一月二七日午前一一時五五分ころ岡山市内道路において普通乗用自動車を運転中、先行停止する小幡登喜男運転、小幡美津子同乗の普通乗用自動車に追突し、同人らに頸部捻挫の傷害を負わせたというものであるが、その公判において、同人らには傷害を生じていないとする被告人に有利な証拠の証拠調が実施され、同人が無罪判決を受けることは確定的であつて、その無罪言渡しがなされた場合、岡山県公安委員会の右処分は取消、無効となるから、その無効処分に基づく非反則行為としての違反は成立せず、単なる反則行為にすぎない。よつて、弁護人は、罰金刑を減軽のうえ執行猶予を付されるべきであると主張し、被告人は無罪相当であると弁解する。

一件記録中の訴訟条件を充足する証拠として証拠調した交通事件原票謄本によれば、その(6)反則制度不該当欄中の非反則行為欄のうち「118、119の反則行為者の過去一年以内の行政処分」欄に「昭和五八年一二月一三日停止六〇日(30)と記載されているが、これは判示日時、判示場所で被告人を検挙した取締警察官が同人の携帯する運転免許証のうち裏面欄の記載を確認したうえ転記したこと、岡山県警察本部交通部免許第二課長司法警察員警視原浩志作成の捜査関係事項回答書によると、被告人の行政処分歴中に「C4ジコ 08点58年11月27日11時250安全運転義務213 721018900661岡山 岡山053 03」と記載されていることが認められ、これに当裁判所に顕著な事実である被告人弁解の右被告事件の公訴事実をあわせて考慮すると、被告人は、岡山県公安委員会より、昭和五八年一二月一三日付で、被告人が自動車を運転中、同五八年一一月二七日午前一一時ころ追突事故を発生させて道路交通法七〇条にいう安全運転義務の違反を犯したことに基づき、同法一〇三条以下の手続に従つて運転免許の効力を六〇日間停止、但し三〇日間に短縮する行政処分を受けたことが認められ、更に前記交通事件原票謄本によると、本件における被告人の同法二二条一項、四条一項、同法施行令一条の二、同法一一八条一項二号に該当する違反の程度は二〇キロメートル毎時超過にすぎず、同法一二五条一項、同法施行令四五条別表第三による反則行為にすぎないところ、被告人は、前記認定のとおり過去一年以内に同法一〇三条二項二号に該当することを理由とする行政処分を受けていたため、同法一二五条二項二号該当の非反則者として検挙され、その速度違反につき公訴提起されたことが認められる。

ところで、岡山県公安委員会が行つた右行政処分は、運転免許制度の目的である道路交通の危険を防止する行政上の目的を達成するために同法一〇三条以下の規定に基づきなされる行政処分であつて、国家刑罰権の行使としての司法処分とは異なることは明らかであり、被告人は、右行政処分につき、岡山県公安委員会に対し、行政不服審査法一四条所定の審査請求期間内に異議申立をしていないし、更に、岡山地方裁判所に対し、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間内に、同人が原告、岡山県を被告とする右行政処分の取消しを求める抗告訴訟も提起しておらず、右行政処分は有効として確定しているから、司法処分としての右業務上過失傷害被告事件の判決が無罪かどうかによつて影響を受けることはないと解する。

従つて、弁護人の主張、被告人の弁解(公訴棄却申立と善解しても)は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為 道路交通法一一八条一項二号、二二条一項、四条一項、同法施行令一条の二

刑種の選択 罰金刑

労役場留置 刑法一八条

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